イケメン御曹司のとろける愛情
 その樋波さんが今日、アンバー・トーンで八時からのファーストステージと九時半からのセカンドステージの二回、ライブを行うはずだった。けれど、昨日、急性胃腸炎にかかってしまい、ライブができなくなってしまった。そこで、急遽代役を探すことになり、田中さんがアンバー・トーンのオーナーに私のデモテープを渡してくれた。

『このレベルの演奏をしていただけるのなら、ぜひお願いしたい』

 デモテープを聴いた三好オーナーがそう言ってくれて、実際に昨日会い、本来なら敷居が高すぎて入れそうにないバーで演奏できることになったのだ。

 ホント、雪絵さんの言う通り、田中さんに感謝しなくちゃいけない。

 田中さんへの恩を返すためにも、ジャズピアニストが樋波明梨から山本奏美に変更になっても聴きに来てくださるお客さまのためにも、そしてなにより私自身のためにも、今日のライブは絶対に成功させなくちゃ!

 腕時計を見ると、今は七時ちょうどだ。そろそろ着替えて指慣らしをしよう。

 ベッドルームに入り、ガーメントバッグを開けて、上半身にビジューと刺繍が施されたオフショルダーのチュールロングドレスに着替えた。ワインレッドという、私にしては思い切った色だけど、ショップの店員さん曰く、私の肌色に合うらしい。実際、肌が白くキレイに見えるし、なにより華やかで艶めいた大人の女性っぽく見えるので、これまでにもライブで何度も着ている。まあ、そんなにドレスをたくさん持ってないっていうのが本当のところなんだけど。
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