イケメン御曹司のとろける愛情
 次はドレッサーの前に座ってメガネを外した。普段、メガネを外すときはコンタクトを入れる。でも、ライブのときはお客さまの顔がはっきり見えると緊張してしまうため、入れないことにしているのだ。よく見えないからこそ、曲によっては客席を見回してお客さまに妖艶に微笑みかける、なんて演出もできる。

 夏頃、ある女性ジャズピアニストが、注目してもらうために水着でライブをして話題になっていた。彼女は華やかな顔立ちをしていて、胸も大きく、いわゆるダイナマイトボディ。残念ながら彼女と対照的な容姿の私は、メイクに頼るしかない。

 ボストンバッグからメイクキットを取り出し、夜の照明に映えるようゴールドブラウンのアイシャドウを重ねた。つけまつげをつけて、赤みの強い口紅を塗って、華やかなメイクを施した。後ろでまとめていたセミロングの髪を解いて、パーマのウェーブが出るよう、ワックスを揉み込む。

 メイクキットを片付ければ、あとはピアノを借りて指慣らしだ。

 リビングの窓からは東京の夜が臨めるけれど、今は夜景よりもピアノ。

 グランドピアノの椅子に座って、鍵盤蓋を持ち上げた。鍵盤に指をのせて、いつも最初に弾く練習曲を弾き始める。

 練習曲に続いて、今日演奏する曲を弾いていたら、明るいチャイムの音が響いた。ハッとしてリビングをキョロキョロすると、カメラ付きのインターホンがあるらしく、壁の小さなモニタにドアの外の映像が映っている。

 さすがにこれだけ広い部屋だとインターホンがあるのかぁ……。
< 19 / 175 >

この作品をシェア

pagetop