イケメン御曹司のとろける愛情
「いただきます」

 柔らかなパンにたっぷりサンドされた具がおいしい。軽食と言いつつ、しっかり満腹になった。

 食べ終わってアンバー・トーンのライブスケジュールをスマートフォンで調べたら、樋波さんは毎週金曜日にアンバー・トーンでライブを行っているのだと知った。しかも、祝日にはウェルカムドリンク付きのホリデーライブがあり、すでに予約で満席らしく、赤字で“満席御礼”と表示されている。

 さすがは樋波さん。

 写真や動画でしか見たことがないけれど、人気なんだ。

 アンバー・トーンなんて贅沢は言わないけれど、私もどこかのジャズバーでレギュラーミュージシャンになりたいな。

 ふと両親の顔を思い出す。両親は四年前、私と住んでいた御茶ノ水のマンションから、兄夫婦が暮らす郊外の一軒家の近くに引っ越した。御茶ノ水のマンションには、現在私だけが住んでいる。

『三十歳になるまでなら、ここに住んでいい。でも、三十になっても今の世界で活路が見いだせないなら、生き方を考え直せ』

 引っ越し前に父にそう言われた。そのときの父の冷めた顔と、母の『ピアノを習わせたのは間違いだったかしら』という悲しげな言葉に、打ちのめされた。
< 28 / 175 >

この作品をシェア

pagetop