イケメン御曹司のとろける愛情
 男性は私の右足の前にパンプスを置き、私の右手を取って促すように立ち上がった。

「どうぞ」
「す、す、すみません」

 イケメンに手を握られたまま立ち上がり、私は赤面しながらパンプスに足を入れた。

「お急ぎのところお待たせして申し訳ありませんでした」

 男性は言って、エレベーターに乗っている人たちに向かって深々と頭を下げた。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんっ」

 私もあわてて頭を下げる。

「では、失礼します」

 男性は顔を上げるや素早くエレベーターから降りた。すぐに誰かが閉ボタンを押す。閉じかけたドアの隙間から、男性がアッパーフロア専用エレベーターに向かっていくのが見えた。

 颯爽と現れて去って行った親切な男性。あんなステキな人がこのビルで働いているんだ……。

 うっとりする間もなくエレベーターは二階に到着し、私は赤い顔のまま一礼してエレベーターを降りた。

「はあ」

 知らず知らずため息がこぼれた。急がば回れってやつだ。朝からものすごく恥ずかしかったけど、爽やかなイケメンに助けてもらっちゃった。

 三十代前半くらいだったかな。キリッとした目元のステキな人だった。
< 3 / 175 >

この作品をシェア

pagetop