イケメン御曹司のとろける愛情
「今日は代役を引き受けていただき、本当にありがとうございました。ステキな演奏で、感動しました」
「こちらこそ、こんな機会をいただいて感謝しています」
「控え室はチェックアウト時間の明日午前十一時まで、ご自由にお使いください。よろしければ、ごゆっくりおくつろぎくださいね」

 じゃあ、あの部屋に泊まっていいんだ!

 なんて嬉しいお言葉!

 っていうか、穂波さんってつくづくビッグアーティストなんだなぁ。

「ありがとうございます」

 私の感謝の言葉に三好さんは会釈で応えて、バーカウンターの隣のドアに向かった。OFFICEと書かれたドアの向こうに、落ち着いた貫禄を感じさせる彼の後ろ姿が消える。

 西谷さんはさっきまで三好さんが座っていたスツールに腰を下ろした。改めて西谷さんを目の前にして、私は緊張しながら彼を見た。

「樋波さんのライブは何度か聴いたんですが、奏美さんがここで演奏するのは初めてですよね?」
「はい」
「普段はどこで演奏を?」
「あー、えっと、専属契約を結んでいるところは特になくて」

 まだない、という言葉を、特にない、という表現で濁した。その方が聞こえがいい気がするし。
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