イケメン御曹司のとろける愛情
 西谷さんがささやくように言って、私の手首から肘へと手のひらを這わせた。無骨な手の動きに鳥肌が立つ。

「キミなら、絶対にうちのバーの人気ピアニストになれるよ」

 西谷さんが私の二の腕をさわさわと撫でた。西谷さんの目に下心が透けて見える。

 そっか。そういうこと……。

 要は俺と寝ろってことだ。体と引き替えに、ロイヤル・クローバー・クラブでライブをするチャンスをあげるって。

「ブレイクするチャンスをみすみす逃す手はないと思うよ」

 西谷さんが耳元でささやいた。

 ブレイクするチャンス。

 どんなものでもチャンスがあるならしがみつきたい。

 悔しいけれど、西谷さんの言葉は今の私の状況をよくわかっている言葉だ。今回はたまたまアンバー・トーンでのライブの機会に恵まれたけど、普段はどうにか一生懸命チケットをさばいて、会場や設備のレンタル料を払っている状態だ。
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