イケメン御曹司のとろける愛情
 彼の顔を思い出してにやけながら、シアトル発日本初上陸のコーヒー専門店の前を通る。四年前、このカフェがオープンしたとき、おしゃれな制服に惹かれてアルバイトに応募した。でも、応募者多数で断られてしまった。仕方なく隣のコンビニエンスストアのバイトに応募し、ありがたいことに採用されて今に至る。

 朝の九時前だというのに、コーヒー専門店はほぼ満席だ。さすがに人気がある。ここでモーニングを食べてから出社する人や、三階の銀行、四階のクリニックが開くのを待っている人たちもいるのだろう。

 朝の時間を優雅に過ごす人たちを横目に、私はコンビニの従業員通用口に向かった。ボストンバッグから従業員証を取り出し、ドアに付けられた読み取り機に通す。ピッと読み取り音がしてロックが解除され、ドアから中に入った。

「奏美(かなみ)ちゃん、おはよう」

 事務室にいた店長の奥さんの松島(まつしま)雪絵(ゆきえ)さんが、パソコンから顔を上げて言った。小柄な雪絵さんは私の母と同じ五十五歳だ。

「おはようございます」
「急いで来たの? 顔、真っ赤よ」
「あー、寝坊しちゃって急いだのは急いだんですが……実はものすごく恥ずかしいことがあって」
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