イケメン御曹司のとろける愛情
 このままではいけない。そして、それをわかってて毎日あがいている。

 今では無名のミュージシャンがロイヤル・クローバー・クラブでライブをするのは不可能に近い。そんななか、たとえ一回でもライブができれば、私のジャズピアニスト人生に箔がつくはずだ。両親だって私の生き方を、もしかしたらほんの少しくらいは認めてくれるかもしれない。

 私は改めて西谷さんの顔を見た。並の俳優よりも整った顔立ちをしていて、目尻に少ししわがあるものの、それが逆に年齢相応の落ち着きを与えている。きっとモテるんだろうな。

 ロイヤル・クローバー・クラブのオーナーなら、きちんとした人なんだと思いたい。

 でも、初対面でいきなりこんな話をされたら……。

 ライブをエサにしてるだけ……ってことはないよね?

 失礼ながら、頭にポッと疑念が浮かんだ。それを読み取ったかのように、西谷さんが言う。

「俺、普段からこんなことをしてるわけじゃないんだよ。奏美さんにはジャズピアニストとしてだけじゃなく、女性としても魅力を感じたんだ」

 西谷さんは二の腕に触れていた手を私の腰に回し、強引に引き寄せた。

 西谷さんは完全にその気で、私が応じるものだと思っている。
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