イケメン御曹司のとろける愛情
「あの……普段、ライブがキャンセルになる確率ってどのくらい――」

 西谷さんは私の唇に人差し指を当ててにっこり微笑んだ。

「そんな野暮なことは言わないでよ。俺たち、二人ともいい大人だろ?」

 西谷さんの声は鼻につくほど甘い。

 拭いきれない不安もあるけれど、あんまりしつこく訊いて印象が悪くなっても嫌だ。

 西谷さんがくれるのは、逆立ちしたって降ってこないようなビッグ・チャンス。喉から手が出るほどほしい。逃したら無名のまま。崖っぷちに立ったまま――。

「奏美さん」

 西谷さんが蕩けそうな声で名前を呼び、誘うように熱っぽく見つめた。そのとき、西谷さんの右隣からスーツの腕がすっと伸びてきた。かと思ったら、その手の甲が私のカクテルグラスの脚に当たり、グラスがコトンと倒れる。

「きゃ」

 とっさのことに驚いて小さく声を上げた。直後、こぼれたカクテルがバーカウンターの縁からしたたり、太ももの上に冷たい滴がポタポタと落ちた。ワインレッドのドレスに深い色の染みが広がる。

「なんてことをするんだ」
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