イケメン御曹司のとろける愛情
 私はエレベーターのドアの隙間にパンプスのヒールが挟まった出来事を話した。

「あら、それは大変だったわねぇ」

 雪絵さんが同情するように言った。

「でも、イケメンが現れて助けてくれたんですよ」

 私がイケメンの“神対応”を説明すると、雪絵さんが顔を輝かせた。

「えー、ステキ! エレベーター王子ね!」

 雪絵さんの言葉に、私は思わず頬を緩める。

 ピンチを救ってくれたんだから、確かに“王子様”かもしれない。でも、スリムというより逞しい感じで、身長も百八十センチくらいあったし、肩幅も広かった。“王子”というより“騎士”の方がしっくり来るかもしれない。

 私が思い出してうっとりしていると、雪絵さんがにやーっと笑う。

「んー、恋の予感がするわね」
「えっ」
「いいわねぇ、オフィスで芽生える恋! 最近読んだ小説にもそういうのがあったわ」

 雪絵さんが両手を頬に当てて夢見るような表情をするので、私は内心苦笑した。ここで働き始めてすぐに知ったけど、雪絵さんは大の恋愛小説好きだ。それも甘~いハッピーエンドのものを厳選して読んでいるらしい。

「でも、ここにいるのは女性のアルバイトばかりですよ」
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