イケメン御曹司のとろける愛情
「美しい音楽を奏でるために生まれてきたみたいな名前だ。キミにぴったりだね」
「ありがとうございます。母が音楽好きだったので……。でも、まだ名前負けしているような気がします」
「そんなことないよ。何度も言うけど、本当にすばらしい演奏だった。奏美さんの演奏、すごく好きだよ」

 水無川さんの言葉には熱がこもっていた。目の前には、彼のキレイな鳶色の瞳がある。

 そんなふうにまっすぐに見つめられたら、演奏が好きだと言われているだけなのに、なんだか頬が熱くなってしまう。

「あ、じゃ、そろそろ演奏しますね」

 私は顔が赤くなったのを見られないように、グラスを置いてピアノに近づいた。もう十一時近いというのに、あまり視力のよくない私の目にも、窓の外の都会の明かりが光の洪水のように見える。

 椅子に座って鍵盤蓋を持ち上げた。大きく息を吸っておもむろに最初の音を鳴らす。

 水無川さんが好きだと言ってくれた『フライ・ハイ』。彼の夢、純国産小型旅客機が翼を広げ、大空を飛べますように。その思いを込めて、鍵盤の上を指を転がすようにしながら軽やかに、そして明るく奏でる。
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