イケメン御曹司のとろける愛情
　店長と雪絵さん、それに私を除けば全員大学生。雪絵さんの言ういわゆる“オフィスラブ”のような展開は起こりそうにない。

「ここではね」

　雪絵さんが意味ありげに笑った。

　雪絵さんが言わんとすることはわかる。なにしろ、このコンビニが入るビルは、東京都心ど真ん中にある五十五階建ての超高層・高級オフィスビル、B.C. square TOKYOなのだ。一階から七階には、ほかにフィットネスジムや飲食店があって、外部の人も利用できる。でも、八階から四十一階のオフィスフロアには、“日本屈指”や“世界的”といった形容詞が付く大企業や法律事務所が入っている。

「オフィスラブの舞台になるのに、このビルほど適したところはないと思うわよー」

　雪絵さんの目はどこか違う世界を見ているようだ。

「まあ、そうかもしれませんけど……私みたいに二十九にもなって不安定な生活を送っているフリーターとは、さすがに恋は芽生えないと思いますよ。だって、彼、アッパーフロアで働いているみたいです。私とは住む世界が違いすぎますよ」

　十一階から二十六階を占めるミドルフロアに入る企業の人でも、年収は一千万円を超えるという話だ。アッパーフロアと呼ばれる二十七階から四十一階の企業で働く人たちに至っては、平均年収はなんと四千万円だとか。
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