イケメン御曹司のとろける愛情
 水無川さんが体を起こし、ピアノに近づいてくる。

「キミのライブを聴いたのは本当に偶然だったんだ。悩んで仕事が手に着かなくて……気分転換にオープンしたてのビルを覗いてみた。そうしたら、キミがピアノに向かったところだった」

 水無川さんが私をじっと見つめた。

「失礼な話だけど、最初はコーヒーを飲む間だけ聴いてやろうってつもりだった。でも、キミが弾き始めたとたん、衝撃を受けた。なんて力強い演奏なんだろうって。胸のど真ん中に響いてきた。コーヒーも仕事もなにもかも忘れて聴き惚れたよ。今でも心に残って忘れられないんだ。胸が熱くなって、気づいたら涙がこぼれていた。立ち止まってないで歩き出せって背中を押された気がしたよ。それで、新型エンジンを開発しようと決めた」

 水無川さんは熱のこもった口調で続ける。

「開発は一筋縄ではいかなかったけど、従業員一丸となって取り組んだ。そうして、完成した新型エンジンが無事MJRJプロジェクトに採用されて、うちもインフィニティ・エアクラフトに出資することになった。キミの演奏のおかげだよ」
「それは……言いすぎじゃないですか?」

 私は照れて視線を鍵盤に落した。
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