イケメン御曹司のとろける愛情
 真緒ちゃんの声を聞いて、商品を棚に並べようとしていた手が止まった。

 山本はわりと多い名字だけど、ここで働く“山本さん”は私だけだ。

「どうして?」

 紗良ちゃんの問いかけに真緒ちゃんが答える。

「だって、山本さんってバイトしながらピア二ストを目指してるんでしょ? っていうか、三十歳にもなって独身でバイトと掛け持ち生活? 本業にできないなら、それって才能がないってことなんじゃない?」

 真緒ちゃんは一段声を低くしたけれど、売り場にいる私にはどうしたって聞こえてしまう。

 今度は紗良ちゃんの声が聞こえてくる。

「でも、昨日ライブしたとかどうとか、今日、自慢してたよ」

 え、自慢してたつもりはないんだけど……。

「へー、そうなんだ。じゃあ、ここのバイト辞めるのかな?」

 いや、その予定はないです。

 心の中でそう答えたとき、紗良ちゃんが言う。

「それはないと思うよ。ライブって言ったって、メジャーなピアニストの代役だったらしいし」
「代役? じゃ、それって昨日だけってこと?」
「そうらしいよ」
< 79 / 175 >

この作品をシェア

pagetop