イケメン御曹司のとろける愛情
 紗良ちゃんの返事を聞いて、真緒ちゃんが言う。

「なーんだ。じゃあ、やっぱり芽が出そうにないんだね。私もピアノやってたんだけどさ、私くらいのレベルの人間なんていくらでもいるってことに気づいて、普通の大学に進学したんだ。才能ないならさっさと諦めて堅実な道を歩む方がいいと思うんだけどな」
「まあ、そうかもね。でも、人それぞれじゃない?」

 紗良ちゃんの言葉に、真緒ちゃんが厳しい口調で返す。

「そんなこと言って、イタイアラサーになったらどうすんのよ」
「イタイアラサー?」
「だって、そうでしょ。現実を見ないでいつまでも夢ばっかり追ってさ。本人はキラキラ輝いているつもりかもしれないけど、こっちから見たらイタイだけだって」

 真緒ちゃんの声には嘲りがこもっていて、私は下唇をキュッと噛みしめた。

「それはそうだよねー。夢ばっか見てて、気づいたらおばあちゃんになってたとか、しゃれになんないかも」
「でしょー」

 真緒ちゃんが言って、二人でくすくす笑い始めた。私は身動きできず、その場でじっとしていた。
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