イケメン御曹司のとろける愛情
「あ、いらっしゃいませ」

 真緒ちゃんたちの意識がお客さまに向いたので、私はそっと立ち上がって倉庫に戻った。


***


 七時に店長が来たので、それからすぐにバイトを上がった。電車で御茶ノ水のマンションに戻り、急いでクローゼットを開ける。

 ライブで着るドレスを除けば、ごく普通のスーツやワンピースしか持っていない。そのなかでも一番アンバー・トーンにふさわしそうなシックなネイビーのワンピースを選んだ。胸元がカシュクールになっていて、淡水パールのネックレスと合わせると、それなりに上品に見える。

 それなり、かぁ。

 メガネをコンタクトに変え、メイクで華やかさをプラスしながら、私はため息をついた。

 翔吾さんは私がコンビニ店員の地味子・山本だと知ったらどうするだろう。

 このまま言わないでいたら、騙したみたいになる?
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