イケメン御曹司のとろける愛情
 私はトイレから出て、トボトボとレストラン・バー専用エレベーターに向かった。ほどなくしてエレベーターが到着して、待っていたカップルと一緒に乗り込む。

 カップルは五十四階のボタンを押し、私は五十三階を押した。

 五十三階に着いて開いたドアから降りる。エレベーターのすぐ前はフレンチレストランで、その隣がグラッタチエロだ。ガラスのドアに近づくと、中から係の人がドアを開けてくれた。

「いらっしゃいませ」

 パリッとした制服を着た男性が礼儀正しく微笑んで言った。

「あの、水無川で予約していると思うんですが」

 私はおずおずと言った。

「承っております」
「あの、連れの者は遅れて来ます」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」

 案内係がさっと歩き出し、私は彼に続いた。テーブル席が二十ほどある店内は、土曜の夜だけあってほぼ満席だ。

「こちらのお席へどうぞ」

 案内されたのは窓際より一つ内側の席だった。さすがに窓際の席は数日前から予約で押さえられているのだろう。
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