イケメン御曹司のとろける愛情
「一年前、ポートスクエアでのライブのあと、少し話をしたんだけど、覚えてくれてたわけじゃなかったんだね」

 翔吾さんに言われて、私は記憶をたどる。

 一年前のポートスクエアでのライブ。会場は白くて真新しいビル特有のペンキかなにかの匂いがした。ピアノは国産メーカーのグランドピアノで、ハロウィンの飾り付けがされていた。

『あのピアニスト、誰? 有名な人?』
『とりあえず写真撮っとく?』

 そんなささやき声も聞こえてきて……。

 からかい半分でニヤニヤしながら『名前、なんていうんですか?』って訊いてきたのは、大学生っぽい男子グループで……。

 そこまで思い出したとき、さっきのソムリエがワインボトルを運んできた。

「ワインをお持ちいたしました。こちらになります」

 ラベルを見せられ、翔吾さんがうなずく。

 ソムリエは慣れた手つきでコルク栓を開けた。抜いたコルクの匂いを嗅いで、ワインに問題がないことを確認し、翔吾さんのグラスに少量注ぐ。

 翔吾さんはグラスを取り上げ、目と鼻、そして舌でテイスティングをする。

 さすがに慣れているんだ。
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