課長の瞳で凍死します ~伊勢編~
 



 何故、後ろに下がっていく、沢田……。

 雅喜が足を緩めても、また真湖はいつの間にか、斜め後ろになっていた。

 そこからまた緩めると、真湖は更に遅くなる。

 なんなんだ、お前はっ、と立ち止まろうとしたとき、いきなり、真湖が、たたたっ、と駆け寄ってきた。

 真横に並び、自分を見上げて、ふふ、と笑う。

 ……どうした。
 可愛いじゃないか。

 口に出していたら、真湖に、どうしたってなんですか、と言われそうだな、と思いながら、社殿の前に行く。

 真湖は祈っていた。

 いつまでもいつまでも祈っていた。

「なに祈ってんだ?」
とつい、声をかけると、真湖は目を開け、

「はっ、煩悩にまみれていました」
と言ってくる。

 まみれてそうだな……。



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