課長の瞳で凍死します ~伊勢編~
 



 鳥羽水族館を見たあと、真湖たちは、また電車に乗って、伊勢まで戻った。

「可愛かったですねー。
 カピバラ」
とどうやらいつも空いているらしい座席に座り、真湖が言うと、

「……魚は見なかったのか」
と言われる。

「そういえば、何故、水族館なのに、カピバラが居たんでしょうね」

「水辺の生き物だからじゃないのか?
 あと……可愛いから」

 可愛いから、という答えが課長の口から出るとは思わなかったな、と思う。

 課長は、私がカピバラを眺めている間、横に立って、腕を組み、難しい顔をしていたが。

 もしや、あれは、カピバラを愛でている顔だったのか。

 ……わかりづらい人だ。

 ん?
 だったら、時折、私を渋い顔で見ているのも、可愛いと思って見ているんだったり……。

 ちらと今も渋い顔をしている雅喜を見ると、こちらに視線に気づき、少し下を見て言ってきた。

「沢田、財布が落ちかけてるぞ。
 中身がないとは言え、ちゃんと鞄の口は閉めておけ」

 ……怒られた。


 

< 13 / 48 >

この作品をシェア

pagetop