課長の瞳で凍死します ~伊勢編~
鳥羽水族館を見たあと、真湖たちは、また電車に乗って、伊勢まで戻った。
「可愛かったですねー。
カピバラ」
とどうやらいつも空いているらしい座席に座り、真湖が言うと、
「……魚は見なかったのか」
と言われる。
「そういえば、何故、水族館なのに、カピバラが居たんでしょうね」
「水辺の生き物だからじゃないのか?
あと……可愛いから」
可愛いから、という答えが課長の口から出るとは思わなかったな、と思う。
課長は、私がカピバラを眺めている間、横に立って、腕を組み、難しい顔をしていたが。
もしや、あれは、カピバラを愛でている顔だったのか。
……わかりづらい人だ。
ん?
だったら、時折、私を渋い顔で見ているのも、可愛いと思って見ているんだったり……。
ちらと今も渋い顔をしている雅喜を見ると、こちらに視線に気づき、少し下を見て言ってきた。
「沢田、財布が落ちかけてるぞ。
中身がないとは言え、ちゃんと鞄の口は閉めておけ」
……怒られた。