課長の瞳で凍死します ~伊勢編~
ラウンジでお抹茶をいただいてから、部屋に入った。
その広さもだが、二つのベッドが大きなひとつの天蓋で覆われているのが、まず目につく。
「課長っ。
天蓋つきのベッドですっ!」
まだ仲居さんが居るというのに、思わず、新種の虫でも発見したかのように叫んでしまう。
横に居る雅喜が、
「課長はよせ、課長はよせ、課長はよせ」
と小声で呪文のように繰り返してきた。
確かに、課長とか言うと、不倫旅行かなにかみたいだ、と思いながら、可愛らしい仲居さんに向かい、
「あ、あの……」
主人です、と雅喜を紹介しようとした。
だが、今まで言ったこともない言葉なうえに、雅喜に対して自分がそんな言葉を言うなどと、恐れ多い気がして、真っ赤になって俯いてしまった。
見兼ねた雅喜が、
「とんだ間抜けですが、妻です」
と勝手に紹介してくれた。