課長の瞳で凍死します ~伊勢編~
 だが、真湖は中に入っても、何故か手を離さなかった。

 中について入るのもな、と思っていると、すすすすっ、と無言で、戸を閉める。

 腕が通る隙間だけ開け、用を足すことにしたようだ。

 莫迦だな、電動のトイレの誤作動なんてよくあることなのに、怖がるとか、と思ったが、そんな真湖が可愛らしくもあった。

 ぎゅっ、と握ってくる手に愛を感じていると、すぐに水の流れる音がして、真湖が出て来た。

 そのまま、ベッドまで戻ると、手が離れた。

「おやすみ、沢田」
と言って、すぐに眠りに落ちる。

 今、つないでいた手を思い出しながら、昼間もちょっとつなぎたかったな、と思っていた。

 自分の性格上、なかなか、そんなことは言い出せないのだが。

 伊勢神宮の長い参道でも、水族館でも。

 実際にはつないではいなかったのに、夢の中では、手をつないだ真湖が自分を見上げ、楽しそうに笑っていた。
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