課長の瞳で凍死します ~伊勢編~
「あ~、ついにこの部屋も見納めなんですね」
食事を終え、部屋に戻った真湖は呟く。
憧れの天蓋つきのベッド。
一度、外に出てみただけの西側のベランダ。
浴衣を着替えただけの和室。
一度も座っていないマッサージチェア。
一度も使っていないシャワー室。
幽霊が出るかもしれないトイレ……
は、まあ、いいけど。
「なんだか思い残すことばっかりですっ」
と騒ぐと、
「わかった」
と溜息をついた雅喜は、タブレットを手に言う。
「とりあえず、思い残すところに全部存在してみろ。
撮ってやるから」
……存在してみろって、と思いながらも、和室に座って、ジュースを飲んでみたり、ベランダに出て、外を眺めてみたりした。
それを雅喜がすべて写真に収めていく。
ベランダで風に吹かれながら、真湖は振り返り、言った。
「課長も撮ってあげますよ」
「俺はそんな莫迦な真似はしない」
……すみませんね。
莫迦な真似で、と思いながら、真湖は言った。