課長の瞳で凍死します ~伊勢編~
「えーと。
 あまりの凄さに、ははーって感じです。

 あの、お白州でお奉行様に土下座して、ははーっ、みたいな」

 そんな感じにかしこまっています、と言いたかったのだが、
「……お前は下手人か」
と言われてしまった。

 だが、雅喜は、リアルに真湖がお白州で、ははーっとしているところを想像してみたのか、ぷっと吹き出す。

 あ……、課長が笑ってくれた。

 っていうか、言ったら殴られそうだけど。

 課長っ、笑った顔、可愛いですっ、と思っていた。

 そんな課長の顔が見られただけで、この伊勢旅行、やり遂げたって感じですっ! と思っていたのだが。

 口に出して言っていたら、恐らく、
「じゃあ、もう帰れ」
と言われていたことだろう。

 そのとき、手をつないで仲良さげに歩いてくる老夫婦が見えた。

 あ、いいなあ、と思う。

 あんな風に課長と一緒に年をとりたいな。

 そして、またいつか二人で、伊勢に来て、ああして手をつないで歩くんだ。
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