フェアリーテイルを夢見てる
フェアリーテイルを夢見てる
私の1日は、愛しのあの人を、夢の世界から現実世界へと引き戻す所から始まるのです。
時計のベルが鳴り始めるやいなや、瞬時に目覚めた私は、自分のベッドから抜け出すと、急いで隣のベッドで眠る彼の元へと接近します。
「たくみさん…」
大胆にも、横たわる彼の体の上に乗り上げ、耳元に口を寄せ、優しく囁きかけるのです。
「ほら、目覚まし時計が鳴ってるよ。早く起きないと、遅刻しちゃうよ」
手先で頬をツンツンとつついたり、どさくさ紛れに瞼や唇にチュッチュッとキスをしたりしていると、彼は徐々に覚醒して来ます。
「んん~…」
そして低音で唸って身じろぎしたあと、瞼を開き、一拍置いてから、ほんわかとした微笑みを浮かべつつ、挨拶するのです。
「……やぁ、おはよう。ケイ子」
まだしっかりとは焦点の合っていない、ぼんやりとした目元と、うっすらと無精髭の生えた口周り、あちらこちらにぴょんぴょんと跳ねている頭髪。
なかなかのダサさ、おとぼけ具合です。
普段のパリッとした巧さんからはとても想像がつきません。
だけどそれさえも、私にはとてもいとおしかったりするのですけどね。
こんな彼の姿を目撃した女性は過去にも存在はするのでしょうが、少なくともここ数年間は私が独り占めしているのでした。