異常と呼べる愛を孕んで、君に吐き出し、自殺しよう

ーー同じ会社の人で、気になる人がいるんだ。告白されてから、私も彼が頭から離れない。

彼女のスマフォのやり取りは、全て俺のパソコンに届くようになっている。紛失盗難対策用アプリの応用で得たある日の友人とのメール(やり取り)。

彼女も俺を想ってくれていた。歓喜する前、友人からの『じゃあ、つき合っちゃえ!』という言葉に。

ーーうん。でも、なんだか付き合ったら、重くなるような気がして。

理解できない文字があった。

重いとはなんだろうか。愛情に関してのことなら、重さに比例して、その人のことを大切に想っている証ではないか。

軽い愛で彼女は不安がることはないのか。
重ければ重いほど、いっそ雁字搦めにしてくれるほどの愛じゃなければ満たされることはないのに。

俺の空洞は埋まらない。けど、彼女は些細なことで埋まってしまうようだった。付き合ったと仮定した時、この愛情の重さの違いで彼女は俺を鬱陶しく捉えてしまうのかと葛藤した。

俺は、ずっと満たされず、上げられない叫びを喉元に置いたままで彼女とつき合うことになるのか。

より酷く愛情を求めてしまい、果ては彼女を傷つけてしまうのではと危惧していた矢先。

ーー私もずっと、あなたのことが頭から離れないです。

それは、事前解答があったことでもあるのに聞いた瞬間、涙する言葉だった。

同時に、危惧が杞憂となる。
満たされた。埋まったんだ。埋まったからこそ、嬉しいのに泣いてしまう。

大の大人がみっともなくとも、彼女は大丈夫ですかと戸惑いながら涙を拭いてくれた。

どこまでも、優しい。
何よりも、愛おしい。

満たされるとは、こんなことだったのかと今なら幸せになれたと大声ではっきりと言える。

彼女を初めて抱きしめた時だった。
驚いたであろうに、石のように固まった体が、不慣れながらもぎこちなく俺の想いに応えようと身を捩り、腕を体に回された。

よしよしと慰めるかのような右手と左腕。左腕は俺の背中に強く当てられ、右手は頭を撫でてくれた。

衝動のままに行動ーー両想いになったのだから、このまま俺の部屋に連れて行き一緒に暮らし始めようと思ったが、先日の言葉が思い出される。

付き合ったら、重くなりそうで。

溢れ出す気持ちを無理に抑えつけた。無難な行動をし、良き彼氏としての対応をし、抱きしめ合った以上のことはしなかった。

物足りない。しかして不思議と、満たされないとは思わなかった。幸せだ。満たされたけど、物足りない。この幸せがもっと欲しい。永遠と味わい続けたい欲求に駆られた。

本当に、一日中、雑踏がない何もない二人だけの空間で居続けたいのに。

一緒に暮らしてくれないか。仕事を辞めて、ずっと家にいてほしい。他には目を向けず、俺だけを意識してくれ。俺だけのことを考えてくれ。口から出そうになった言葉を、呑み込む。

何度も何度も、想いに蓋をした。

重い愛は嫌われてしまうから。

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