異常と呼べる愛を孕んで、君に吐き出し、自殺しよう
「異常なんだよ、お前の愛は」
友人ーーもとい、“ただの話し相手”。前の職場において、整形した俺に面白がって話しかけてきた奴は、以来、こうして時折、俺の話に忌憚ない言葉を返してくれる。女性関係にしまりのない不誠実な奴ではあるが、さばけた性格のためどんな話をしても下らないことと切り捨て、話したことを触れ回ったりはしない。
「うぜえ、めんどくせえ、おもてぇ。自分勝手すぎ、『人としてどうよ?』の域に足踏み込んでるってーの。これなら、女をとっかえひっかえしていた頃の方がマシじゃね?」
ケタケタと笑う奴の言葉にムッとしたが、一般的に俺の愛は常軌を逸している自覚はあった。
毎日でも会いたいのに、会うのは週一回あるかないか。相手の声が聞けずとも平気らしく、連絡は気が向いた時のメール程度。大好きな相手のはずなのに、ちょっとしたことで喧嘩をし果ては別れにも繋がる。
それが『正常』。
俺にとっては、そちらが異常に思えた。
「他人同士なんだよ、所詮。相手が自分の思い通りにいかねえ時、お前はどうするよ。連れ去ります閉じ込めます言うこと聞くまで帰しませーん。あ、いや、帰さねえのか。ハハッ、犯罪者脳だな、おい。何事もほどほど程度がいいんだよ。他人のことならな。どうせ、思い通りにはいかねえんだから、こんなもんだと割り切ればいい。食べ物だけじゃなくて、人間関係にも消費期限があるんだよ。記載されてないだけで、いずれは必ず“駄目”になる時が来る。冷蔵庫から出しっぱなしで食べ続けるのもいいけどさ、腐っちまうぞ?」
所詮は他人なんだから。
俺は一生彼女と共に生きていきたいが、彼女と俺の想いは違い過ぎる。
いつか、駄目になる。
とても恐ろしく思った。
そうならないためにも、比較的あっさりとした恋人関係を維持していたのだが、駄目になったのは人間関係以前に、俺自身だった。
会えない分、彼女と会った時の反動が酷くなる。
ーーあなたは、案外泣き虫なんですね。
ふっとした時に流れる涙。それを困ったように笑っては、拭ってくれる彼女。こんな優しさにも消費期限があるのか。不安でたまらなかった。
念願叶って付き合い始めたはずなのに、もう別れることでいっぱいになる頭を壊したくなるが、彼女が撫でてくれるから出来もしない。
大きい子供だと、情けなくなった。されども、彼女は変わらずに優しい。どうしてそんなに優しいんだ。人間として腐っている俺の何がいいんだと、思わず聞いたことがあった。