クールな次期社長の甘い密約
「茉耶ちん、おはよう!」
専務は今日も爽やかな笑顔を残し、颯爽と受付の前を横切って行く。
「専務、特に変わったとこないわね」
「……ですね」
居酒屋の緊急会議からもう一週間になる。事情を知った専務に振られると覚悟してたのに、彼の態度が変わる事はなかった。
朝はさっきみたいに笑顔で挨拶してくれるし、夜は仕事が終わった後に必ず電話してきてくれる。嬉しいはずなのに、なぜか気分は晴れない。
「ほら~、やっぱり私が言った通りでしょ? 専務は大沢さんが宮川先生の姪っ子とか、そんなの関係なく純粋にアナタの事が好きなのよ」
やっぱりって……あんなに麗美さんの推理を絶賛してたのに。森山先輩ったら調子いいなぁ~。でも、私の事を心配してくれてるんだよね。ちょっとクセがあるけど優しい先輩だ。
「だったらいいんですが……」
「それより、もうさっさと専務とシちゃいなさいよ。そうすれば、そんな不安なんてどこかに飛んでっちゃうわよ」
豪快に笑う森山先輩を横目に、今日何度目かのため息を付く。
でも、もうそろそろだよね。今度、専務と会う時は、きっとそうなる。
もちろん専務とホテルに泊まった時からそのつもりだった。けれど、あんな話しを聞いてしまったら……素直に彼の胸に飛び込めるか不安だな。
外見は変わっても、このネガティブ思考はそう簡単には変えられない。森山先輩みたいにポジティブな性格になれたらどんなにいいだろう。