クールな次期社長の甘い密約
麗美さんは森山先輩が言ってた会社乗っ取り疑惑も払拭し、倉田さんの潔白を証明してみせると意気込んでいた。
――が、しかし……
翌日の深夜、すっかり夢の中だった私は麗美さんの電話で起こされる事になる。
『……茉耶ちん、ヤバい』
切羽詰まった声に驚き、一瞬で目が覚め起き上がると麗美さんが衝撃的な言葉を口にする。
『倉田課長……本当に会社を乗っ取ろうとしてるのかもしれない……』
「えっ?」
『私、倉田課長が電話で話してるの……聞いちゃったの』
イタリアンレストランで行われていた親睦会がお開きになる直前、倉田さんのスマホに電話が掛かってきたらしい。
倉田さんは席を外し、それを見た麗美さんが後をつけ、コッソリその内容を盗み聞きしたそうだ。
『声が小さくて全部聞き取れなかったけど、倉田課長言ってた。"専務はまだ若くて経営者としては未熟"だとか、"私が社長になったら……"とか……』
「……マジですか?」
『うん、それでね、親睦会が終わってタクシーで帰る時、私と倉田課長が同じ方向だって知ってたから、タクシーに同乗させてもらって聞いてみたの』
麗美さんが聞いたのは、倉田さんの両親の事。本当に津島物産のせいで一家心中した家族の生き残りかどうかを確かめようとしたんだ。
「で、倉田さんはなんて?」
『さすがにズバリ聞くのは抵抗があったから、私の家族の話しをした後に、それとなく倉田課長の家族の事を聞いてみたの。そうしたら、両親は居ない。自分は天涯孤独だって……』