クールな次期社長の甘い密約
――季節は廻り、青葉茂る初夏。
うっとおしい梅雨の時期が終わったばかりだというのに、建ち並ぶビルの隙間から降り注ぐ日差しは肌を焦がす様に暑く、まるで真夏の様だ。
あれから専務との仲は順調で、心配していた専務ファンからの嫌がらせもない。こんな幸せでいいのかなって怖くなるくらいだ。でもただ一つ、気掛かりな事があった。それは倉田さんの事。
麗美さんからの情報はあの噂通りで、倉田さんが津島物産を乗っ取ろうとしてるのはほぼ間違いないだろう。けれど決定的な証拠がない。
それに、専務と居る時の倉田さんはそんな素振りは一切見せず、優秀で誠実な秘書。私が騒いで専務に訴えたところで、きっと専務は信じてはくれない。一笑されて終わりだろう。
だから倉田さんが言い逃れ出来ない様な証拠はないかと日々、彼の様子を窺っていた。
そんな七月のある日、常務に来客があった。前日に秘書室から報告を受けていた大切なお客様だったので、私が常務室まで案内する事になった。
エレベーターで最上階まで上がり、広い廊下を少し行くと常務室のドアが見えてくる。
「どうぞ、こちらです」
笑顔でドアをノックしようとした時、内側からドアが開き、意外な人が顔を覗かせた。
「おや、大沢さんじゃないですか」
えっ? 倉田さん?
一瞬、専務室と間違えたのかと思いプレートを確認するが、間違いなく常務室だ。
言葉を失い倉田さんの顔を凝視していると倉田さんが私の後ろに居るお客様に気付き、丁重に頭を下げる。
「失礼しました。どうぞお入り下さい」