クールな次期社長の甘い密約

倉田さんの手で大きく開け放たれたドア。その向こうから現れたのは役員受付の麗美さん。麗美さんは私に向かってアイコンタクトをし、複雑な表情を見せるが、すぐにお客様を案内して常務の居る部屋に入って行く。


麗美さんも不信に思っているんだ。これは、なんとしても倉田さんに確かめないと……


気合いを入れ振り返ると彼は既に専務室の前に居て、ドアノブに手を掛けていた。慌てて後を追い大声で呼び止める。


「倉田さん、待って下さい! どうして専務秘書のあなたが常務室に居たのですか?」


こちらを見た倉田さんは、いつもと同じ感情のない声で「何か問題でも?」って平然と答えるから、私の胸に積もり積もった疑念が爆発した。


「大問題でしょ?」

「ほーっ……私が常務室に居たら大問題ですか? 大沢さんは相変わらず面白い事を言いますね」


含み笑いに神経を逆撫でされ、このまま彼を行かせてなるものかと目の前の腕を掴む。


倉田さんと会う時はいつも専務が居る。今を逃したら彼と話す機会は暫くないかもしれない。


「……お話しがあります」


真剣な眼差しで倉田さんの顔を見上げると彼は小さなため息を付き、廊下の先を指差した。そこは日の光が燦々と差し込むホテルのラウンジの様なスペースだった。


「ここは、役員専用の談話室です。この時間帯は利用する方は居ませんから、どうぞ遠慮なく」

「は、はぁ……」


緊張気味に大きなソファーに腰を下ろすと倉田さんが私の前のソファーに座り、余裕の表情で背もたれに深く体を預ける。


「それで、私になんの話しですか?」

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