クールな次期社長の甘い密約
ついさっきまで倉田さんの陰謀を暴いてやると意気込んでいたのに、いざとなると言葉に詰まる相変わらずヘタレな私。
「あ、あの、倉田さんの悔しい気持ちは分かります。でも、専務を裏切る様な事はやめて頂けませんか?」
「専務を裏切る? 私が?」
「そうです。専務は倉田さんを心から信頼してます。だからお願いします。私は専務が悲しむ姿を見たくないんです」
「うーん……申し訳ありませんが、大沢さんが何を言いたいのか全く分かりませんねぇ」
はぁ? 分からない? 人がせっかく下手に出てお願いしてるのに……
「でしたらハッキリ言います。倉田さんは自分の家族が亡くなったのは、津島物産のせいだと思っているんですよね? だから会社に復讐しようとしている。違いますか?」
早口で捲し立てると彼の表情が険しくなり、私から視線を逸らす。
やっぱりそうだったんだと確信したのだけど、また倉田さんがプッと吹き出し笑い出した。
「アハハハ……私が会社に復讐ですか?」
なっ、この期に及んで、まだすっ呆けるつもり?
「笑って誤魔化さないで下さい。常務と裏で手を組んで専務を失脚せようとしているんでしょ? 何もかも全て分かっているんだから!」
「あぁ~だから私が常務室から出て来た時、妙な事を言っていたんですね。私と常務が悪だくみをしているとでも思ったのですか?」
「そうです! この事はまだ専務には言ってません。倉田さんが復讐を諦めると言うならこのまま黙っています。だから……そんな事はやめて下さい」