クールな次期社長の甘い密約

「……分かりましたよ」

「えっ、分かってくれたのですか?」


勇気を出して倉田さんと話して良かったと心の底から安堵する。


倉田さんだって根っからの悪い人じゃないんだよね。家族を亡くしてその怒りをどこにぶつけていいか分からなかっただけ。可哀想な人なんだって思ったのに……


「ええ、大沢さんのトンチンカンは、かなり重症だという事が分かりました」

「はぁ?」

「妄想するのは勝手ですが、作り話は迷惑です」

「ちょっ……作り話なんかじゃありません。現に倉田さんは専務が経営者としては未熟だとか、自分が社長になるとか言ってたじゃないですか!」


立ち上がろうとしていた倉田さんの動きが止まり、今度は目を逸らす事なく私を凝視した。


「それは、どこで聞いたのですか?」

「あ、えっと……その……」


麗美さんに聞いたなんて言ったら彼女に迷惑が掛かるから絶対に言えない。


なんとか誤魔化そうとしたけど、倉田さんは「なるほど……」と呟き、全てを理解した様にフッと笑う。


「大沢さんのトンチンカンの原因は、谷本……麗美ですね?」

「いえ、違います。麗美さんは関係ありません」


あっという間に形勢は逆転。


倉田さんの「お喋りな秘書は問題ですね」って言葉に肝が冷える。


そして、自分にはそんな野心はないとキッパリ否定し「専務に言いたいのならどうぞご自由に……」と捨て台詞を残して去って行った。


結局、上手く切り返され惨敗。


それより麗美さんがチクった事になってしまった。早くこの事を麗美さんに知らせないと……


焦った私は速攻で受付に戻り、麗美さんにラインする。

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