クールな次期社長の甘い密約
得意げに私の肩を抱く専務に、この事を知っていたのかと訊ねるとニッコリ笑って頷いた。
「いつから私が大原源治のひ孫だと知っていたのですか?」
「茉耶ちんを受付で初めて見た後、なぜ君が受付に配属されたのか人事部の部長に確認したら、じいさんの指示だと言うので倉田に調べさせたんだ」
「倉田さんに? じゃあ、専務は初めから知っていたんですね」
「そういう事だな」
知っていたのに、なぜ専務は私に黙っていたんだろう……
疑問に思ったが、会長が私達の結婚の話しを始めたからそれ以上は聞けなかった。
「結婚式には、ワシも出席するからな。いや~実にめでたい!」
ここでも結婚話しが怖いくらいとんとん拍子に進んでいく。反対されず良かったとは思うけど、でもそれは、私が大原源治のひ孫だから……
そして両家の顔合わせは、専務がお盆に私の実家に挨拶に行った後という事で話がまとまり、私と専務は双方の家族に認められ晴れて正式に婚約した。
車に戻ると専務は倉田さんに会長が喜んでいた様子を伝え、倉田さんは冷静に「おめでとう御座います」と言っていたが、私はなんだか複雑な心境だった。
その複雑な思いは、私がマンションの前で車を降りる時に専務が言った一言で更に強くなる。
「親父がなんだかんだ言っても、津島物産の実権を握っているのはじいさんだからな。これで俺は間違いなく社長になれるよ」