クールな次期社長の甘い密約

倉田さんは部屋に入るなり「気付いた様ですね……」と呟き、ため息を付く。彼の表情とその一言で私の不安は現実のモノとなり、ショックで膝がガクガクと震え出す。


「そんな……」


とうとう立っていられなくなって崩れ落ちる様に床にペタンと座り込むと、倉田さんが屈んで私の肩を力無くポンと叩く。


「以前、大沢さんは私に、専務が宮川先生の姪と大沢さんを間違えて付き合ったんじゃないかと言っていましたよね。あの話しを聞いた時、正直、焦りました」

「えっ……」

「宮川先生は関係ありませんでしたが、専務が社長になる為に大沢さんを利用している……それは当たっていましたから」

「あぁぁ……」


倉田さんは、私と専務が初めて受付で顔を合わせた後、何があったかを話してくれた。


――人事部の部長に私が受付に配属された理由を聞いた専務は、なぜ会長が私みたいな一社員の人事に口出ししたのかが気になり、倉田さんに調べるよう指示した。


そして倉田さんは色んな所に探りを入れ、常務からその理由を聞き出した。


「常務にですか? 専務も知らない事をどうして常務が……?」

「社長が一番信頼しているのは常務です。ですから会長から大沢さんの事を頼まれた社長は、常務に大沢さんの件を任せたんですよ」

「一番って……それじゃあ、専務は社長に信頼されてないって事ですか?」


私を見下ろしていた倉田さんの目がスッと逸れ、苦悩の表情を見せる。


「残念ですが、社長も会長も、専務は経営者としてはまだ未熟だと思っています。ですから専務は会長の信頼を得ようと大沢さんに近付いた。しかし、そうした方がいいと提案したのは、私です」

「……えっ?」

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