クールな次期社長の甘い密約
今まで私の質問に即答してきた倉田さんが急に黙り込み、瞼を閉じて大きく息を吐く。
「……私が得する事などありません。ただ、私はなんとしても専務を社長にしたかった。専務を社長にする事が私の使命だと思ってましたから……」
そして、目を開けた倉田さんが悲壮感漂う顔で私を見つめる。
「今でもその思いは変わっていません。しかし今は、その使命感より大切なモノがあるんです」
「大切なモノ……ですか?」
「そう、分かりませんか? 大切なモノ……それは、大沢さん、アナタです」
「私……」
「ですからこの話しをしたのです。これ以上、アナタを騙し続ける事は、私には出来ない……」
そう言うと床に両手をつき、私に向かって深々と頭を下げた。突然土下座され、面食らってしまって言葉も出ない。
倉田さんは、私と専務が結婚すれば、会長はきっと専務を後継者として認め社長に指名するだろうと言った。
「しかし、大沢さんが騙されたまま結婚し、後にこの事を知ったら、その時のショックはどれほどのモノか……そう思うと黙っている事が出来なくなったんです」
「倉田……さん」
私を利用しようと言い出したのは倉田さんだけど、私を案じて正直に真実を話してくれた彼に怒りは感じなかった。それより、専務の優しさが全て偽りだったという事がショックだったんだ。
「倉田さん、頭を上げて下さい。専務が本気で好きになってくれたって勘違いして舞い上がってた私がバカだったんです」