クールな次期社長の甘い密約

「ヘアースタイルはお任せって言われてるから、僕の好きにやっちゃっていいよね?」

「は、はい……ただ、あまり派手にならない様にお願いします」

「りょうかーい!」


声高らかに大きく頷く店長を見て、すっかり安心してたのに、カットが終わると少し明るめのカラーを入れた方がいいとか、緩くウェーブがあった方が可愛くなるとか言い出した。


話が違うと抵抗したけど、冗舌な店長に押し切られてしまい、半分放心状態で鏡に映るぼやけた自分を見つめる。


「じゃあ、次はメイクだね! いつもはどんな感じのメイクしてるの? やっぱ、ピンク系の可愛い感じかな?」


お化粧している前提で聞いてくる店長に、年がら年中すっぴんだと答えると案の定、絶句された。


「はぁ~今時、小学生でもメイクしてるよ? でも、通りで肌荒れもないし、眉もボーボーなんだね。これは断然、ヤル気になってきた。気合い入れてメイクしてあげるから楽しみにしてて~」


気合いなんて入れてもらわなくていいのに……


「あの、しつこいようですが、なるべく大人し目に……」

「りょうかーい!」


さっきと同じだ。この"了解"は信用していいんだろうか?


眼鏡を外しているから鏡に映った自分の顔は殆ど見えない。それでも店長は親切丁寧にメイクの仕方を私に教えてくれて、いつしか私もその熱意にほだされ店長の説明を真剣に聞いていた。


「マスカラ塗ったら終わり。でも、めっちゃ長くて元気のいい睫毛だね~。彼女、髪といい、肌といい、いいモノ持ってるよ!」

< 23 / 366 >

この作品をシェア

pagetop