クールな次期社長の甘い密約
出来れば二人には知られたくなかったけど、実家行きを明日に控え、私はいっぱいいっぱいだった。もう自分一人じゃどうしていいか分からない。
だから十分後、麗美さんが血相を変えてカフェに飛び込んで来たのを見た時は、心底ホッとした。
運ばれてきたランチに手を付ける事無く、目の前の森山先輩と麗美さんに、会長と私の母親の実家の関わりを話すと二人の顔が青ざめる。
「そんな……専務が茉耶ちんを利用しようとしてたなんて……」
「うぅん、まだそうと決まったワケじゃないんです。でも、専務を心から信じる事が出来なくて……」
いつも好き勝手に意見を言う二人も、今回ばかりはさすがに神妙な顔で言葉少なだ。結局、誰も専務の本当の気持ちなんて分からない。分かるワケがなんんだ。
そんな重苦しいい空気が漂う中、口を開いたのは森山先輩だった。
「ねぇ、大沢さん、専務の事は確かに気掛かりだけど、私はアナタの気持ちの方が気になるわ。さっき言ってた大沢さんが好きになった人って……誰?」
森山先輩が真っすぐ私を見つめると麗美さんも目を見開き私を凝視する。
「うん、そうだよ。いつそんな人と出会ったのよ?」
「あ……それは……」
麗美さんの顔を見て一瞬言葉に詰まって目を伏せるが、ここまで話したらもう隠している事が罪の様な気がして……覚悟を決め顔を上げた。
「私が好きになったのは……」
「うん、なったのは?」
「……倉田さんです」