クールな次期社長の甘い密約

「で、どうするの? 専務と別れて倉田課長と付き合うの?」


私は麗美さんの言葉に首を振り、倉田さんとは付き合えないと言った。二人は怪訝な表情で理由を聞いてくるが、倉田さんに全くその気がないと知ると一気にトーンダウンする。


「倉田さんは誰より専務が大事なんです。だから私が専務と別れても付き合ってくれないと思います」


冷静になって考えてみれば、倉田さんがどうして私を専務から奪うつもりはないと言ったのか、その理由が分かる気がする。


私と付き合ったら、当然、専務秘書のままでは居られない。下手をすれば、津島物産を辞めなきゃいけなくなるかもしれない。だから倉田さんは、そう言ったんだ。


私が倉田さんを好きになれば、彼を不幸にする……


「それに、結納金の倍返しだなんて無理です」

「あぁ……そうか。それがあったわね」


そう、指輪も受け取ってしまったし、今更どうしようもない。


「でもさ、専務の言動に怪しいところはあるけど、全く愛情がないとは言い切れないんじゃない? 私が見る限り、専務は茉耶ちんに惚れてると思うんだけどな~」


麗美さんがそう言うと森山先輩も大きく頷く。


「そうね、取っ掛かりの理由はなんであれ、問題は、今専務が大沢さんをどう想っているかって事でしょ?」

「はい……」

「私が大沢さんだったら、専務を信じるけどね」


専務を信じる……か。そうだよね。私が専務を信じれば、専務も両親も会長も、そして倉田さんも……皆が幸せになれるんだ……

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