クールな次期社長の甘い密約

――そして、翌日。今日は、いよいよ専務と私の実家に行く日だ。


高速は渋滞が予想されるので新幹線で帰る予定だったのに、迎えに来てくれた車に乗り込むと専務が突然、予定を変更すると言い出した。


「えっ、車で行くんですか?」

「あぁ、実家まで電車で行くと乗り換えが四回もあるんだろ? で、最寄りの駅から実家までは、山を越えて車で三十分。それなら電車で行くより車の方がいいんじゃないかと思ってね」

「はぁ……」

「俺は普段車の運転は殆どしないから、実家までの運転は倉田に頼んだ」

「く、倉田さんに?」

「あぁ、倉田は運転に慣れてるから気にしなくていいよ」


驚いて運転席に目をやると倉田さんが少しだけ振り向き、軽く会釈する。


確かに私の実家まで運転するのは大変だ。でも、私が気にしているのはその事じゃない。倉田さんも一緒に私の実家に行くって事に戸惑っていたんだ。


が、専務がその気になっているのに、私が反対するのもどうかと思い、渋々専務の提案に従ったんだけど――……


その提案は、見事に裏目に出る。


途中、何度も渋滞に巻き込まれ、私の実家に着いたのは東京を出た七時間後。お昼過ぎに着くはずだったのに、もう夕方だ。


三人とも精根尽き果てクタクタ。特にずっと一人で運転してきた倉田さんはグッタリしていて、実家の二階で休んでもらう事にしたんだけど、相当疲れていたんだろう。夕食の時間になっても起きてこない。

< 233 / 366 >

この作品をシェア

pagetop