クールな次期社長の甘い密約
「ねぇ、秘書さん起こさなくていいの?」
キッチンで母親が心配そうに天井を見上げる。
「あ、うん、疲れてるんだよ。もう少し寝かせてあげて」
本当は、倉田さんを起こして一緒に食事をした方がいいのかもしれない。でも、私は倉田さんに加わって欲しくなかったんだ。
当然、話題の中心は私と専務の結婚の事。そんな所に倉田さんが居たら私はどんな顔をしていいのか分からない。
母親が揚げたキスフライを大皿に盛り付け、居間に行くと父親が専務にペコペコ頭を下げていた。
「貴志さんのお陰で借金を返済する事が出来ました。本当に有難う御座います。しかし、二千万もの大金を結納金だなんて、良かったんですか?」
「いえいえ、お気になさらずに。大切なお嬢さんを頂くのですから、そのくらい当然です」
専務はビールの入ったグラス片手に満面の笑みだが、父親は恐縮しまくりで、まだ頭を下げている。そんな父親の姿を目の当たりにし、なんだか複雑な気持ちになった。
普通なら、結婚を申し込みに来た男性の方が父親の顔色を窺い気に入られようとするものだけど、ウチの場合は反対だ。
事情が事情だから仕方ないけど、そんな父親の姿がなんだか哀れで、こっそり小さなため息を付く。
やっぱりこの縁談を破談には出来ない……
改めてそう思った時、専務が隣に座った私に向かって眉を下げ言う。
「そう言えば、茉耶ちんのおばあさん、熱を出して寝ているそうだね。お会い出来るのを楽しみにしてたのに、残念だなぁ~」