クールな次期社長の甘い密約
私が婚約者を連れて帰って来ると聞いた祖母は感激し、いつも以上に農作業に精を出した結果、疲れが溜まって風邪を引いてしまったらしい。
「さっき、おばあちゃんの様子を見に行ったら薬が効いて眠ってたけど、熱は下がってましたした。明日には元気になると思います」
「そうか、じゃあ、挨拶は明日の朝にするよ」
私が笑顔で頷くと、キッチンから戻って来た母親が浮かない顔で言う。
「せっかく貴志君が来てくれたのに、今夜から雨みたいなの。明日は近所の海水浴場でバーベキューするつもりだったのに……予定が狂っちゃったわ」
「あ、もしかして台風の影響? でも、今朝の天気予報じゃ、こっちには来ないって言ってたけど」
「それがね、夕方になって台風の進路が変わったみたいで、予報通りなら直撃らしいわ」
「えっ、直撃?」
お盆休みなのに台風が直撃だなんて、ホント、ツイてない。こんな田舎だから海や山以外何もないし、困ったなぁ……
専務が退屈するんじゃないかと心配していたんだけど、ほろ酔い気分の専務は別段、気にする様子もなく「のんびりするのも悪くない。俺の事は気にしなくていいよ」って熱々のキスフライを頬張っている。
そんな専務の様子を見ていた父親が急に背筋を伸ばし、わざとらしく咳払いをした。
「では、そろそろ結婚式の話しをしましょうか?」
あ、そうだった。その為に専務はここに来たんだ……
それから父親と専務はお互いの仕事の都合など、スケジュールを確認して話し合った結果、結婚式は十一月に決まった。