クールな次期社長の甘い密約
お母さんの父親って事は、大原源治の息子。私のおじいさんだ。
「どうして、おじいさんが関係するの?」
「私が小さい頃、父さんは戦争で亡くなった自分の父親の話しをよくしてくれたわ。父親は立派な人だったって……でも、それ以上に立派だったのは、戦後の何もない時代に、幼い自分を必死で育ててくれた母親だったってね」
――おじいさんが子供の頃、津島物産の会長がしょっちゅう訪ねて来て、ひいおじいさんが亡くなったのは自分のせいだから、出来る事はなんでもすると言っていたそうだ。
ひもじい生活に耐えられなくなったおじいさんは、ひいおばあさんに会長に助けてもらおうと泣いて訴えた。
しかし、ひいおばあさんは『お父さんが死んだのは津島さんのせいじゃない。お父さんは戦争で死んだんだ』と激怒し、そして『人の弱みに付け込で、施しを受けようなんて卑怯な事を考える人間にだけはなるな』とおじいさんを叱った。
おじいさんは自分を恥じ、これから先は誰にも頼らず生きていこうと決めたそうだ。
「だからね、自分が困っている時、津島さんって人が現れて償いをさせて欲しいと言われても、決して頼ってはいけない……そうキツく言われていたのよ」
「だから、会長を頼らなかったんだ……」
「そういう事。でもね、茉耶の就職のお願いくらいなら父さんも許してくれるんじゃないかなぁ~って思ってね」
ペロッと舌を出す母親に呆れてしまったが、おじいさんの言いつけを破ってまで、私を津島物産に入れてくれた母親に感謝していた。
「……お母さん、ありがとね」