クールな次期社長の甘い密約

「お腹すいたでしょ? 今用意しますね」


私と倉田さんは、おばあちゃの部屋を出て一階のキッチンに来ていた。母親は待ちくたびれて寝てしまった様だ。


冷蔵庫を開け、残っていたおかずを取り出しながら、どうしてすぐに否定出来なかったんだろうって考えていると倉田さんが窓の方を見つめ、ボソッと呟く。


「雨か……」

「台風が来るみたいですよ」

「台風ですか? それは心配ですね」

「えぇ、明日は大雨になるかもしれませんね」


徐々に大きくなる雨音を聞きつつ、他愛のない話しをしていた。そんななんでもない会話が楽しくて、このまま朝まで倉田さんと話していたいと思ってしまう。


けれど、倉田さんに結婚式の日取りは決まったのかと聞かれると一転、逃げ出したい気分になる。


「……専務がなるべく早くって言ったので、十一月に決まりました」

「なるべく早くか……」


倉田さんはそれ以上何も言わず、黙々とご飯を食べ、私も無言でグラスに麦茶を注いでいた。けれど、その哀愁漂う横顔を見ているとなんだか切なくて、堪らず彼から視線を逸らす。


すると倉田さんがとても優しい声で「おめでとう御座います」って言ったんだ。


その言葉を聞いた瞬間、何か凄く大切なモノを失ってしまった様な気がして……


「倉田さん、私の決断は、間違っていませよね?」


その質問に倉田さんは「大沢さんがそう決めたのなら、間違っていないでしょう」と静かに答える。


彼の言葉を聞いて私は自分に問い掛けていた。


私は倉田さんに、どんな答えを期待していたんだろう……

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