クールな次期社長の甘い密約
――翌日、私は切羽詰まった声に起こされた。
「茉耶ちん、悪い。今から東京に戻る」
専務のその一言で一気に目が覚め飛び起きる。
「どういう事ですか? 帰るのは明後日のはずじゃ……」
「今、実家の親父から電話があって、じいさんが病院に運ばれたって……どうも持病の心臓らしい。辛うじて意識はあるが、もしかしてって事もある」
「あ……じゃあ、私も……」
慌てて立ち上がろうとすると専務が私の肩を掴み首を振る。
「いや、せっかく帰って来たんだ。茉耶ちんは明後日までこっちでゆっくりしてればいい」
「でも……私、専務の婚約者ですし……」
ひいおじいさんの話しを聞いて以来、会長を身近に感じていたから居ても立っても居られず立ち上がったんだけど、専務と一緒に部屋に来ていた父親が私を引き止める。
「貴志君の言う通りだよ。茉耶が行ったところで何も出来ないだろ? 反対に迷惑になるかもしれん」
「あ……」
強い口調で迷惑だと言われたら返す言葉もない。眉を下げ専務を見上げると彼は私の頭をクシャリと撫で、笑顔で頷いた。
「心配いらないよ。じいさんはしぶといからな、きっと元気になるさ。それじゃあ、俺は倉田を起こして帰るから……」
そう言うと専務は速足で倉田さんが居る隣の部屋に向かった。でも、起きてきた倉田さんの様子がなんかいつもと違う。目が虚ろで足元がおぼつかない。
階段を下りた所でしゃがみ込んでしまい、咄嗟に倉田さんの体を支えると燃える様に熱かった。
「倉田さん……凄い熱ですよ」