クールな次期社長の甘い密約

「……ぶっ!」


お母さんったら、娘に向かってなんちゅう事言うのよ! でも、凄いって……?


どういう風に凄いのかが気になったけど、それを母親に聞くワケにもいかず、私の頭の中はヤバい妄想でいっぱい。


すると診察を終えた先生が、おばあちゃんの様子も診てくると言ったので、元気になったって教えてあげようとしたのに、なぜか母親が私の言葉を遮る。


「どうぞ、診てやって下さい」


先生が部屋を出て行った後、どうしておばあちゃんが元気になった事を言わなかったんだと母親に訊ねると、またいやらしい笑みを浮かべた。


「老い先短い二人の恋路を邪魔しちゃダメよ」

「はぁ? 何それ?」

「あの先生は、おばあちゃんの元カレなのよ」

「うっそ……」


仰天する私に母親が、おばあちゃんの幼馴染みの梅さんから聞いたという過去の切ない恋バナを教えてくれた。


――おばあちゃんがまだ、うら若き乙女の頃、あの先生と付き合っていて結婚の約束をしていたそうだ。でも、農家の一人娘だったおばあちゃんには両親が決めた許嫁が居て、二人は泣く泣く別れたんだと……


それから五十年余り……仙台で開業医をしていた先生が地元であるこの地に戻ってきて診療所を始めた。


「先生はね、おばあちゃんの事が忘れられず、ずっと独身だったそうよ。そんな話しを聞いたらホロリときちゃうじゃない」


母親の口からホロリなんて言葉が出てくるのは、絶対おかしい。


「開業医で独身……あの先生、相当金持ってるわよ」


なるほど、それが本音か……

< 247 / 366 >

この作品をシェア

pagetop