クールな次期社長の甘い密約
「頼れる身寄りも居ないって言うしね、可哀想じゃない」
間違いない。遺産目当てだ。
したたかな母親に呆れてしまい、冷めた視線を向けると自分の悪だくみがバレたと悟ったのか、そそくさと部屋を出て行ってしまった。
でも、おばあちゃんにそんな辛い過去があったなんて……
ため息を漏らす私の横で、倉田さんも大きく息を吐く。
「昨夜、おばあ様は言ってました。今は好き同士が結婚出来るいい時代だと……今思えば、あれは、好きだった先生と結婚出来なかった事を嘆いていたのかもしれませんね」
「そうですね……」
納得したフリをして頷いたものの、心の中では、今の時代だって好きな人と結婚出来るとは限らないと正反対の事を考えていた。
「倉田さんは、今は好きな者同士が結婚出来るいい時代だと思いますか?」
私の唐突な質問に倉田さんは閉じかけた瞼を開け、なんの躊躇いもなく即答する。
「私は結婚など考えた事もありませんからね。いい時代かどうかは分かりません」
「結婚の事を考えた事がない? 一度も?」
「ええ、一度も……」
「そう……ですか」
なんだか気まずい雰囲気になり会話が途切れると倉田さんは雨戸が閉まった窓の方に顔を向けた。
「この台風で電車が止まらなければいいのですが……」
自分が高熱で辛い時に専務を心配してる。
「あんな言い方されたのに、怒ってないんですか?」