クールな次期社長の甘い密約

正直、あの時の専務は酷いと思った。会長が倒れて動揺していたってのもあるだろうけど、彼が倉田さんに罵声を浴びせるところなんて見たくなかった。


「別に……いつもの事ですよ。あのくらいの事で腹を立てていたら専務秘書は務まりません」


倉田さんは大人だな。私だったら立ち直れないかもしれない。そう思った時、専務が倉田さんに言ったあの言葉を思い出した。


「あの、専務言ってましたよね。倉田さんが帰っても会長は喜ばないって。あれは、どういう事なんですか?」


すると今まで普通に喋っていた倉田さんが布団を頭までスッポリ被り、私に背を向ける。


「……すみません、眠くなってきました。少し寝ます」

「あ、えっ? 倉田……さん?」


なんかおかしいって思ったけど、体調の悪い倉田さんを問い詰めるワケにもいかず、渋々部屋を出た。


そのまま一階の居間に行くと父親が帰って来ていて、母親とソファー座り、浮かない顔でボソボソ話しをしている。


専務を駅まで送ってくれたお礼を言った後「どうかしたの」と訊ねてみたら――……


「お父さんね、貴志君を駅まで送って行く途中、秘書さんは病気だったんだから、あんなキツい言い方はしない方がいいって意見したらしの。

そうしたら貴志君、事情も知らないのに偉そうな事言わないでくれってお父さんに向かって怒鳴ったそうよ」

「えっ、専務がそんな事を?」

「あぁ、あの優しい貴志君が秘書の事になると人が変わったみたいになるんだな。あの秘書、何か問題がある男なのか?」

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