クールな次期社長の甘い密約

次に私と正体不明の男性が向かったのは、またもや専務御用達の個人経営の眼科医院。


「今度は、その眼鏡をなんとかします」

「えっ? 眼鏡ですか?」

「はい、コンタクトにして頂きます。大沢さんは眼鏡が似合いませんからね」

「コンタクト? む、無理です! 目の中に異物を入れるなんて、そんな恐ろしい事……私には無理です!」


それだけは勘弁して欲しいと懇願したのに、私の切なる願いは見事にスルーされ、診察室で男性に無理やり羽交い絞めされた状態でコンタクトを入れられてしまった。


目の中にレンズを入れるなんて行為、想像しただけでチビりそうだったけど、案ずるより産むが易し。全然へっちゃらで、靄が掛かっていた様な視界が一気にクリアになる。


「わっ! 何コレ? 眼鏡と全然違う。果てまで見えます!」

「それは少々言い過ぎです。そもそも、大沢さんの視力と掛けていた眼鏡は度が合っていなかった様ですし、見え方が違うのは当然です」

「あ、そうなんですか……」


それにしても、こんなに楽ちんで快適なんて……コンタクトも恐るべし。


その後、コンタクトの着脱の仕方を練習し、眼科医院を後にした。乗り込んだ車は渋滞が始まったイチョウ並木が続く道路を会社がある新宿方面に向かってゆっくり進んで行く。


なんか、濃い数時間だったな……


経験した出来事を思い出しながら、カールした髪を指に絡め小さく息を吐く。

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