クールな次期社長の甘い密約
専務から連絡があるかもしれないのでスマホをポケットに突っ込み、倉田さんの様子を見に行こうと部屋を出ると、ちょうど先生がおばあちゃんの部屋から出て来た。
えっ、先生、まだ居たんだ。てか、この嵐の中を帰るの? 大丈夫かな?
心配しつつ先生を見送っていたら、部屋の中からおばあちゃんの声がする。
「茉耶、昨夜のお兄ちゃん風邪だって?」
おばあちゃんは、自分が風邪を伝してしまったんじゃないかと心配していた。
「うん、でも先生に注射打ってもらったからすぐ良くなると思うよ。それより、聞いたよ。あの先生、おばあちゃんの元カレなんだってね」
軽く流されると思ったのに、おばあちゃんは顔を真っ赤にして照れている。
「なんだ、知ってたのかい」
「うん、でも凄いよね。五十年もおばあちゃんの事想い続けていたなんて。もしかして、おばあちゃんも先生の事ずっと好きだったとか?」
半分冷やかしで聞いたのに、おばあちゃんは真面目な顔で「そうかもね」って呟いた。
「茉耶のおじいちゃんと結婚した時は、毎晩、隠れて泣いていたよ。でも、子供を産んでからは泣いてる暇もないくらい忙しくて、あの人の事を思い出す事もなかった。
だけどね、おじいちゃんが亡くなって暫くした頃、優子さんが和也と結婚したいって押し掛けてきて、その時、久しぶりにあの人の事を思い出したんだよ」
「お母さんが家出してきた時に?」
「そう、私にも優子さんみたいな情熱があったら、あの人と一緒になっていたかもしれないって思ってね……」